2005年にスタートしたマンスリーパーティPRIMOもおかげさまで14周年!当日は長野県上田市よりギタリスト白石才三率いるblissed、この日だけのスペシャルプロジェクトThe InnerSource Commonsのライブの二本立て! 安定の選曲/DJ・トーク・そして賑やかなバーカウンター! AAAなPRIMOレギュラー陣+フレンズが金太郎飴状態でお送りする夜!GWのスタートにみなさまでお誘い合わせの上お祝いに駆けつけていただければ嬉しいです!

原宿にあるとあるカフェでのアニバーサリーでDJの後、テーブルに出されたいくつかのフードをつまみにギネスビールで喉を潤していた時の事…
「今度、青山faiで何か面白いイベントをオーガナイズしてくれませんか?」と、Routine Recordsの西崎さんよりオファーを受けた。(貴重な機会を与えていただきとても感謝しています。ありがとうございます。)
当時、どちらかというとクラブよりホテルやレストランなどでのDJ活動がメインであったが人も料理も内装もとても気に入っていた、ホームグラウンドともいうべき店・IDEE shimouma service stationが止むなき理由でクローズする運びとなったばかりで、「ちょっと雰囲気や場所を変えてやってみるのもいいかな?」と思っていたこともありその場で即答し、1ヶ月後よりイベントがスタートする事になった。とは言え、コンセプトもタイトルもDJも全く決まってなくゼロからのスタートであった訳である。
その夜、今は廃刊となってしまった“CASE”という雑誌に、多くの有名DJによって絶賛され日本でも話題となったアーティスト“HIRD”や、北欧のニュー・ジャズやハウスなどを独自の視点でコンパイルした「NORDIC LOUNGE」シリーズなどをリリースしていたスウェーデンのレーベル「DNM」のオーナー“Jakob Lusensky”のインタビューが掲載されているのを思い出し、家の本棚を探してみた。
Jakobは友人達と、ストックホルムの中心に位置し、コンテンポラリーアートやアンティークを組み合わせたスウェーデンで最も旬でスタイリッシュとも形容される“LYDMAR HOTEL”でいくつかのパーティをオーガナイズしていたのだが、それらについて書かれたインタビューを読み進めてみると、イベントの核となる部分がまず自分の中で見えて来た。
そして、イベントのコンセプトはこんな感じに決まった。
ジャズやソウルのグルーヴ感や
生のライブを楽しめる空間。
僕らはみんながリラックスして
音楽を楽しめる場所を作って行こうと思う。
なぜなら,そこに集まる人々は
様々な物事に対して
とてもオープンな考えを持ってるはずだから…
を合言葉に、
平日ならではの新たな試みと
空気感を提案し続けるマンスリーイベント。
でも、待てよ…。コンセプトがあっても、イベントタイトルが決まっていない…。フライヤーも作れないし、webでの告知も間に合わない…。faiの店長香月くんからは情報早く送って下さいと催促の連絡が絶えず入る…。
もう、ヤバい…。
そんな時、レックスボックスに立てかけられたレコードの最前列にあったモノクロの横顔ジャケのレコード「PRIMO KIM/TO BE NEAR」が目に入った。PRIMOと言う単語そのものにも、イタリア語で「最上の」「上質な」といった意味がある事を、知識が乏しいながらも把握していたので、作りかけのイベントのロゴや今後求めて行くべき方向性にもきっとマッチするに違いない思い、イベント名を「PRIMO」とする事にした。
そうして、無事スタートを切った「PRIMO」も、足をお運び頂いたお客様、出演して頂いたバンドやDJ、いつもおいしいお酒と空間を提供して下さるfaiの皆さんに支えられながら早いもので3年弱の月日が経とうとしています。
そんな折、ネイチャーブリスさんのご協力のもと、マンスリーイベント「PRIMO」のコンセプトを基にセレクトされた音源をカタログ化できることとなり、先に述べたイベントスタートまでの経緯や個人的な思い入れから、シリーズ第一弾として本作を無事CD化できる運びになった訳であります。
それでは、本作「PRIMO KIM/TO BE NEAR」について、分かりうる限りの事を記して行こうと思います。
PRIMO KIM(プリモ・キム)。現在もシアトルを中心に、シンガー/ピアニスト/作曲家としての活動を続ける彼は、フィリピン人とドイツ人の間に生まれ、幼少の頃より始めたクラシックピアノをバックボーンにそのキャリアをスタートさせる。そして、サンホセ州立大学を卒業後、10余年に渡りN.Y.のラテン・クォーターで甘いノドをふるわせる中で出会ったミュージシャンらとともに、プライベートプレスで制作/リリースされたのが、本盤「TO BE NEAR」(1972年発表)である。
「TO BE NEAR」は、現在もワシントン近郊で活動を続け、齢80にして新作「HOT CLUB CAMANO」を届けてくれたギターのZane Rudolph、当時、人気絶頂であったビートルズなどイギリスのポップスにも非常に造脂が深かった、ベース、アルトサックス、ホーンアレンジを担当するMike Sullivan、日頃のセッション仲間であったドラムのBART TUNIK、そして、ストリングスのアレンジに、ハワイアン音楽で数多く取り上げられる「SWEET SOMEONE」の作者であるGEORGE WAGNERらのメンバーと共に制作され、7曲のオリジナルナンバーと、3曲のカバーで構成されている。
ダイナミックなバッキングと力強いボーカルの掛け合いが絶妙なオリジナル曲、M1「Why You」、M9「How Can This Love Affair Be Through」。緩急を付けたアレンジから、各メンバーのソロ回しを経て再びダイナミックなフレーズへと続く展開からは、日頃からセッションを重ねている気心知れた仲間同士の“阿吽の呼吸”とも言うべき雰囲気が漂う。両ナンバーともジャズ・ダンサー/レアグルーヴとして古くから国内外のDJにも人気が高く、自分自身DJを始めた当初からセットの前半に好んで取り入れているナンバーでもある。
Frank SinatraやJudy Garlandらのバックバンドにも在籍し、近年クラブシーンでも話題となった、伝説的ヴォーカリスト/ピアニスト“Bobby Cole”にも似た雰囲気を醸し出すM3「How Can I Be Sure」。アルバム中、最もボーカルの渋いフレージングが堪能できる曲ではないだろうか?“The Young Rascals”によるオリジナルは、60年代のアメリカンロックをベースに、フランスのシャンソンの要素取り込んだ3拍子のアレンジであるが、ここでは、変拍子からワルツ・タイムへと展開するひねりの利いたアレンジを聴かせてくれる。意外ともいえるこのカバーのセレクトは、ポップスにも造脂が深かったメンバーの“Mike Sullivan”による影響によるものだろうか?
タメのあるピアノフレーズが印象的な16ビートのイントロから一転、4ビートへとなだれ込むジャズロックM5「Right Turn」。M1、M9と並んで、本盤の収録曲のなかでも特にフロア映えするナンバーで、DJ諸氏にとってはたまらないナンバーであるはず。ローカルコミュニティの中で培われた、こういった質感は、正統派のジャズミュージシャン達だけで繰り広げられるセッションとはまた違った趣があり、演奏、展開とも意外性に富んでいてとても興味深い。
同題の映画の主題歌で、ブラジル出身のギター奏者“Luiz Bonfa”作曲のM6「Gentle Rain」。“Luiz Bonfa”が初めてストリングスアレンジを手がけたことでも知られる佳曲である。ハード・バップ・ピアニスト“Kenny Drew”によるJazzバージョンや、「DJ SHADOW以来の衝撃」と呼ばれたトラック・メイカー“RJD2”による、“Astrud Gilberto”バージョンのブレイクビーツリミックスなど様々なカバーが存在するが、“Irene Kral”“Diana Krall”ら女性シンガー達が特に好んで歌うナンバーでもあり、男性ボーカルによるものは比較的珍しい。ここでは“GEORGE WAGNER”による控えめなストリングスアレンジが、甘く優しい声をそっと引き立てる。
“The Ramsey Lewis Trio”で活躍したベーシスト“ELDEE YOUNG”とドラム奏者“ISSAC “RED” HOLT”がピアニストの“HYSEAR DON WALKER”と結成したジャズ・トリオ“Young Holt Trio”による人気ナンバー”Wack Wack”を連想させる、ハンドクラップが入った陽気なラテンナンバーM7「You’ve Gotta Lotta Love To Give」。彼らのショーのハイライトはきっとこんな雰囲気だったのであろうか?
「二人でお茶」で名高い作曲家、“Vincent Youmans”の作品で、1929年のミュージカル「グレイト・デイ」の主題歌でもあるM8「MORE THAN YOU KNOW」。歌自体は身勝手な女性の歌で、「何が何でもあなたが好き、それはあなたが知る以上よ。」という内容で「相手がなんと言おうが、とにかくあなたが好き」と迫る、男性にとってはちょっと怖い歌でもあるが、ビンセント・ユーマンスの手によるメロディはそんな歌詞をも、しっとりとしたオブラートで包み隠してくれる。「Gentle Rain」同様、女性シンガーが好んでカバーするナンバーであるが、本来女性が歌う曲であっても、きっと自分なりに歌いこなせるだけの自信を彼は持っていたのであろう。先日、“Oscar Peterson”の演奏をバックに、“Ella Fitzgerald”がこの曲を歌いあげるライブ映像を見たのだが、年増の女性が見事に歌い上げる「MORE THAN YOU KNOW」も、また、貫禄があり非常に魅力的でもあった。
離ればなれになって行ったミュージシャン仲間に捧げたアルバムのタイトル曲M2「To Be Near」。近年は、映画「MATCH STICK MEN」の主題歌にもなっていたジャズスタンダード「The Good Life」を連想させる旋律の上を、そっと誰かに優しく語りかける様になぞるM4「IS THAT WHY」。アルバムのラスト飾るM10「Don’t Be Afraid It’s Time To Move On 」。いずれも、静寂さの中に激しさを感じさせるバラードナンバーでヴィブラートのかかったヴォーカルと控えめなストリングアレンジのユニゾンが、聴き手を甘く包み込んでくれる。
-以上10曲でオリジナルアルバムは構成され、本盤には同時期にレコーディングされた3曲(未発表)がボーナストラックとして追加収録されています。
イベントのコンセプト同様、ジャズやソウルが本来持つグルーヴ感や、生のライブの雰囲気を想像しながら、リラックスした雰囲気で本盤を楽しんで頂ければ幸いです。
城内 宏信
※2007年10月 PRIMO KIM / TO BE NEAR 再発時のライナーノーツより